2018年2月19日月曜日

友達についての思索・4

 夜にひとりお酒を飲んで、とてもいい気分になり、少し身体が浮き上がると言うか、リズムを取るようなフザけた動きをしながら、友達と笑い合いたい気持ちに駆られるときというのがあって、こんなのってもうクラブじゃん、と思った。クラブってこういう気持ちを充足させる施設なわけじゃん。お酒を飲んで軽く酩酊しながら、流される音楽に乗って適当に身体を揺するんだろう、友達と。あのクラブという場所は。なんだそれは。桃源郷か。全知全能か。
 もう34歳だし、岡山県在住だし、友達いないしで、僕はどうやらクラブとは縁を持たないまま人生を終えるのだろうと思う。そういう風に言うと少しだけ哀しい。でも行ったら行ったで、そういう場所にいる人々のことを僕は好きではないだろうから、愉しめないに違いないという確信も一方である。そもそもゲームセンターでさえ、柄の悪さと音の多さで苦手としているのだから、そんな僕がクラブの猥雑さに耐えられようはずもない。でもパピロウ、うちのクラブはそういうのとは違って、音楽を純粋に愉しむところだよ、怖い人とかいないよ(笑)、ともしも説得を試みる人があれば(ないが)、僕は音楽および、映画や小説やファッションや、そういうサブカルチャー的なものの愛好を、他人と共有しようとする人々のことがとても嫌いなので、それもまた嫌だよ、となる。じゃあパピロウ、いったいどんな雰囲気を作れば君は気に入ってくれるんだい、とそれでもまだ縋ってくる人があれば(あるわけないが)、僕は少し考えたあと、やっぱりこう言うしかないんだと思う。
 僕は、僕しかいないクラブにしか行きたくないんだ。
 その瞬間、僕の周りに群がり、なんとか僕をクラブに連れ出そうとしてくれていた彼らは、シャットダウンしたかのようにプツリと姿を消すのだと思う。
 ピイガの入園グッズ購入をきっかけに、父親である僕のもとにマイメロディブームが到来し、携帯電話にシールを貼ったり、メモ帳を鞄に忍ばせたり、ひそかに暮しの中にマイメロディを取り込みはじめている。いまはさすがにまだ自制心があるが、このままだと夏には堂々とTシャツなんか着てしまいそうな気配があり、気をしっかり持とうと思っている。
 そのマイメロディの、キャッチフレーズなのかなんなのか、グッズのデザイン内にたまに見られる共通の英文というのがあって、それが「Hi Melody! Don't you know everyone loves you?」というものなのである。これを見たとき、とてもハッとした。だって「ねえメロディ、みんながあなたのことを好きだって知らないの?」である。なんたる言い回しだろうか。「Everyone loves you!」ではないのである。みんながメロディのことを好きなんだよ、ではなく、メロディはそれを知ってるの? と訊ねるのである。なんだよそのやさしさは。「Everyone loves you!」だって十分に優しいのに、「Don't you know everyone loves you?」を知ったあとでは、少々角ばっているように思えてくる。それくらい「Don't you know everyone loves you?」には、丸いやさしさしかない。どんだけふわふわのもので包むのか、というくらいにやさしい。そもそも「Everyone loves you!」なんてことは、当然なのだ。世界があって、生命たるマイメロディがそれを知覚している、その時点で「Everyone loves you!」は前提としてある。わざわざ言うまでもないのである。この世界で、話の議題に上るとすれば、マイメロディはそのことを知っているのかどうか、ということなのだ。そしてそれを本人が知っていても、知らなくても、やっぱりエブリワンはマイメロディをラブなのだ。絶対的永久肯定。なんたる心地よさか。
 というわけで2018年のパピロウのスローガンは、「「Hi Papiro! Don't you know everyone loves you?」にしようと思ったのだった。僕はクラブには行かないけれど、僕が苦手とする、クラブにいるような人種もまた、僕の世界では、僕のことを愛しているのだ。そして僕はそれを知っている。知っているんだ。「Of course! I know!」と、僕は瞳を輝かせ、言う。何度も何度も、沢山言う。