2018年1月19日金曜日

大倉と須藤と志田

 大倉が「バンドやろうぜ」とまた言い出したのだけど、大倉のトライアングルと僕のギロではバンドとしてどうしたって成立しないので、もっとメンバーを増やせと命じたところ、連れてきたのが須藤だった。聞けば大倉とは俳句仲間だという。大倉が俳句をやっていたことを僕はそこで初めて知った。そのことを訊ねると「大倉は 実は俳句を してたねん」と、俳句でもなんでもない五七五(しかも謎の関西弁)で答えたので、ムカッとした。それから須藤に向かい、楽器はなにを弾くのか訊ねたら、「……弾く、ではなく吹く、ですね」という答えだったので、ああサックスとかトランペットなのかなと思ったのだけど、続けて「マラカスです」と言ってきたので、またムカッと来た。こんな頻度でムカムカさせてくるメンバーとバンドなんか組めるものか、お前らのごとき弱小楽器演奏者では俺のギロは生きてこねえよ、と帰ろうかと思ったのだが、そこへ現れたのが志田だった。志田もまた大倉が連れてきたバンドメンバー候補で、大倉とは都々逸仲間だという。大倉が俳句のみならず都々逸までやっていたということは、もちろんこのときまで知らず、訊ねたら「実は大倉 してた都々逸 意外な趣味で ビビるやん」と再び謎の関西弁の入った七七七五で答えてきて、もしもバンドを組むことがあっても大倉だけは外そう、音楽性の違いで外そうと思った。そのあとで僕はゆっくりと志田のほうに目をやった。別にビジュアルどうこうというのは音楽表現においてなんの関係もない要素だけど、でもやっぱり世間的にはそこはシビアな部分だし、そうなるとライダースーツをパツパツに張りつめさせている、志田の胸元に鎮座するボリューミーな双丘は、バンドの売りになるのではないか、僕自身に邪まな感情があるわけでは決してなく、どこまでも冷徹な商業主義的な観点から、これは売り物になるのではないかと思った。それで「ボ、ボインちゃんはなんの楽器を弾くのだい」と訊ねたところ、「……弾く、ではなく吹く、ですね」と言いながらライダースーツのジッパーをチチチ、と下げてゆき、その急な展開に、えっ、えっ、となっているところに、志田が取り出して見せたのは、ふたつのカスタネットと、まるで起伏のなくなった胸部だった。そこで僕は本当に家に帰った。その3年後に彼らがグラミー賞を獲るって、誰が予想できたよ。若干の悔しさや後悔はあるけど、今は素直に言いたい。おめでとう。彼らを祝福するために、僕はひとり部屋でギロを7時間あまり奏でた。